【学会レポート】「糖尿病におけるPHR(Personal Health Record)」

日本糖尿病学会および日本医療情報学会合同シンポジウムにおいて、「糖尿病におけるPHR(Personal Health Record)~生活習慣病手帳やお薬手帳の電子化と活用~」と題して、谷澤幸生氏(山口大学大学院 医学系研究科 病態制御内科学分野)と中島直樹氏(九州大学病院 メディカル・インフォメーションセンター)を座長に迎え、糖尿病学会初のPHRを題材にしたセッションが企画されました。この中で徳島大学と株式会社ウェルビーが共同開発したPHR「電子糖尿病ダイアリー」について発表がされました。

概要

【演題】
日本糖尿病学会/日本医療情報学会合同シンポジウム
糖尿病におけるPHR(Personal Health Record)~生活習慣病手帳やお薬手帳の電子化と活用~
【日時】
2016年5月20日 14:00~17:00
【会場】
宝ヶ池-9会場(国立京都国際会館・1F・Room D)
【座長】
谷澤 幸生(山口大学大学院 医学系研究科 病態制御内科学分野)
中島 直樹(糖尿病医療の情報化に関する合同委員会 九州大学病院 メディカル・インフォメーションセンター )
【演者】
中島 直樹(糖尿病医療の情報化に関する合同委員会 九州大学病院 メディカル・インフォメーションセンター )
野見山 崇(日本糖尿病協会 福岡大学医学部 内分泌・糖尿病内科)
脇 嘉代 (東京大学 医学部附属病院 糖尿病・代謝内科)
松久 宗英(徳島大学 先端酵素研究所 糖尿病臨床・研究開発センター)
宮本 正治(恵寿総合病院 内科)
河野 行満(日本薬剤師会 中央薬事情報センター 広報・情報室)

議題/詳細

▷日本はPHR大国
冒頭のセッションで、中島直樹氏により「糖尿病医療におけるPHRの今後」として国内の状況が報告された。日本は1942年より母子健康手帳が義務化されていることや、お薬手帳や糖尿病連携手帳、血圧手帳など、既に数百万人が何らかのPHRを記録している。しかし、電子化は遅れており、今後の急速な発展が期待される一方で、情報セキュリティやシステムの継続性を担保するためのビジネスモデルの構築や標準的情報規格のへの対応が必須だと述べ、「糖尿病ミニマム項目セット」や「糖尿病自己管理項目セット」などの活用状況などを紹介した。

▷PHRとEHRの統合による個別化糖尿病疾病管理プログラム
松久宗英氏(徳島大学 先端酵素学研究所 糖尿病臨床・研究開発センター)からは、「PHRとEHRの統合による個別化糖尿病疾病管理プログラムのご紹介」と題して、現在取り組まれているPHRとEHRを統合した患者自身の気づきによる動機づけ、行動変容の取り組みについて紹介した。
糖尿病治療において、医療者は患者の病態、合併症、さらに社会的背景を考慮した個別化目標を設定し、体重、血圧、脂質、血糖といったリスク因子の適正管理をサポートする。また、患者自身は、血糖、血圧、体重などの日々のバイタルデータを確認し、その目標到達度を自己評価することで動機づけ、行動変容をすることが有用であるとされている。これはすでに「自己管理ノート」「糖尿病連携手帳」などの紙媒体のPHRで実現しているが、PHRを電子化することが有用と考え、研究開発をしている。
EHRとOHRの統合による個別化された糖尿病治療・療養指導の実現

※徳島大学の本事業は、「総務省戦略的情報通信研究開発推進事業(SCOPE)採択事業」として、進められています。
※株式会社ウェルビーは本システムを共同開発しております。

▷スマートフォンを中心にしたIoTと電子カルテ等の医療情報の共有
今回開発したPHRはクラウド型のシステムで、患者はスマートフォンからアクセスする。Bluetooth対応の血糖測定器、体重計、血圧計、活動量計を用いた日々のバイタル測定結果が自動同期され、患者・医療機関は各患者の目標値・合併症状態とともにいつでも閲覧することができる。また、地域医療情報連携基盤ToDO-NETと連係したEHRの検査結果、処方薬情報を反映する。診察に際しては、設定目標と達成度を評価しながら、療養指導を行った。
糖尿病連携手帳の電子化:電子糖尿病ダイアリー

糖尿病患者の各種自己測定結果を電子糖尿病ダイアリーで閲覧可能する

▷PHRシステムによる記入手間削減が自己測定率向上に有効
今回の介入試験では、小規模パイロット試験のため有意差が出てはいないが、介入群では、「時間・手間削減」「理解度向上」「行動意識向上」を評価する声が多く、また対照群では、「記入の手間」を自己管理の課題とする声が最も多かった。PHRの電子化により、記入の手間が省かれ、自己測定の実施率が向上すれば、自己管理状態の向上が期待できる。
今後、患者の自己管理意識とアドヒアランス向上に対する有効性を検証し、よりよいPHRの開発に取り組んでいく。
患者の療養ステージに応じたPHRの役割

▷今後のPHRに注目
その他のセッションでは、脇嘉代氏(東京大学 医学部附属病院 糖尿病・代謝内科)からICT自己管理支援システム「DialBetics」の取り組み、宮本正治氏(恵寿総合病院 内科)から能登地域で実証実験を行った電子版生活習慣病手帳「能登メディカルネット、私の健康note」の取り組み、また、河野行満氏(日本薬剤師会 中央薬事情報センター 広報・情報室)からは注目を集めている電子お薬手帳「日薬eお薬手帳」がそれぞれ紹介された。
最後にパネルディスカッションでは、見えてきた課題について意見が交わされた。個人情報の取り扱いについてガイドラインが未整備な点、臨床利用における責任分解点が不明確な点、集められた情報の利活用をする技術が高度で人材が不足している点、個人を守る正しい情報二次利用のあり方が議論されていない点などが論点となった。
まだ発展途上な分野であるがゆえに、事業の継続性や情報の相互連携の担保、医療者・患者の双方の安全に配慮したシステムの構築と運用に向けて、今後も議論を重ねていくことが必要とされた。

(執筆:株式会社ウェルビー)